第十五回
「浜松演劇教室「浜松方式」を次の世代に引き継ぐ」
浜松高校演劇教室企画機関誌小委員長
浜松市立高等学校教諭 上竹 明夫
全国の演劇教室の先駆けとして1964年に発足した浜松高校演劇教室。
50年の歴史の中で培われた「浜松方式」は、70年代には全国でも固有名詞化し、
問い合わせや視察が相次いだそうです。その根幹をなす事前・事後指導、
作品選定について今一度再確認して、今後の活動への意識付けをしたいと思います。
事前指導について
資料小委員会で独自に編集・発行された資料集を観劇前に加盟校の生徒全員に配り、これに基づいて上演作品についての知識を深めます。
その資料集の活用については、各校ごとに扱い方が異なっています。
上演前に全校集会やロングホームルームを使って説明を行ったり、国語の授業を使って教科担任が説明を行い、生徒の劇に対する意識喚起を求めたりする学校もあります。
事後指導について
観劇後、感動を再確認するために、生徒にはアンケート・感想文・寸感などを書いてもらっています。
これも方法は学校によって様々です。午前中に観劇を実施した学校は、午後の時間を感想文作成の時間にあてたり、
午後に観劇した学校は、翌日の数時限を全校一斉の特別時間割として、感想文を書かせたりしています。
この感想文の中から各校代表2編ずつの優秀作品を集め、感想文小委員会が感想文集を発行しています。
毎年、一万人もの高校生が同一体験をし、その体験を文集として長きにわたって継続して残してきたのです。
このことは、記録価値としても他に類を見ないものとして、高く評価されてきています。
さらに一部の学校では、独自で校内の優秀作品の感想文集を編集・発行したりしています。
また、3回にわたって実施される生徒座談会・教師座談会も、劇団との交流を深める事後指導の根幹となっています。
劇の選定について
企画小委員会において、年間を通して約50前後に及ぶ作品を下見しています。
「浜松方式」においては、これを「研究観劇」と位置づけています。
そしてまず企画小委員会において、第一次候補作品を8つに絞り込み、さらに運営委員会において第二次候補3作品を決定します。
その後、3作品の劇団説明会を経て、企画小委員会が独自に作成したリーフレットを元に、加盟校の全生徒・教職員・運営委員の投票を行います。
生徒の投票については、挙手させると周りの雰囲気に左右されて正確な数が出ない可能性があるとして、
必ずリーフレットを読ませて劇の内容を把握させた上で、投票用紙に○を付けさせて集計するようにしています。
その結果に基づき、運営委員会において10月中旬に、翌年度の作品が決定されます。また、作品の傾向についても、
浜松では草創期より様々な論議がなされ、現在は生徒が在学中に3つの作品を観劇することから、3年サイクルで傾向の異なる作品(感性・情感・知性)を見られるようにしています。
なお、劇の選定については、教室の根幹に関わる重要な要件であるので、生徒にとってよりよい作品を観劇できるように、
運営委員会において常に論議と検証が行われていますが、但し、ここ10年の歩みの中で、上演候補作品の内容の多様化は進む一方です。
本教室においては、企画小委員会による各作品に対するより深い理解によって対応してきました。
ここ10年来は、1つの作品を複数の企画委員で下見し、その結果報告をデーターベース化して、
小委員会の中で比較検討するというやり方をとってきています。にもかかわらず、ここ10年間においても、
参加校の数は減少を続けています。退会の理由は、「行事の精選」「授業時間の確保」がほとんどです。
「演劇教室」は、授業ではない、という考え方です。しかし、現在叫ばれている行き過ぎた行事の精選や授業時間確保の動きは、
かつての「ゆとり教育」同様、いずれ10年、20年後には見直される時が来ます。
その時に、過去に切り捨ててきてしまったものを、元通りに再生することは困難です。
従って、昭和〜平成へと受け継がれてきたこの組織を、我々は任務として、次の世代に確実に引き継いでゆかねばならないと考えています。
(2014年2月)
※執筆者の冒頭の肩書は、当時のままになっています。
現在の肩書が分かる方は、文章末尾に表記しています。