劇団きのうきょう


「演劇」でできること
佐藤尚子(俳優)

 目の前は強い日差しをうけてキラキラ光る東シナ海です。現在私は、来年の「修学旅行」の沖縄公演を立ち上げるために名護市に来ています。東京ではちょうど「シャッター通り商店街」を上演している真最中。この作品も「まちづくり」がキーワードですが、ここ名護市も「演劇」と「まちづくり」について思いを巡らすにはとても良いところです。かつて「翼をください」の公演を成功させようと“やんばるつばさ会”というチームができました。あれから約9年たちますが、またこのネットワークがユニークなメンバーを増やしながら来年の公演を支えてくれようとしています。

 今までも青年劇場は様々な土地で、そのまちの方々の力で公演を成功させてきました。幕が開くまでの準備期間は、人と人がつながることを楽しむ時間でもあったと思っています。“人と人をつなげる”といえば、これも全くスリリングな体験でしたが、2005年から2年間、文化庁の「文化芸術による創造のまち」支援事業を受け、足利市民の方々と2本の芝居を作りました。(※)私たちは芝居が本業ですから当たり前なのですが、市民の方々は別に仕事をもち、家族を持ち、それぞれ解決しなければいけない悩みや事がらを抱えながら、2年間も「芝居づけ」になったわけです。初めて舞台に立つ人から、自分たちの劇団で公演を重ねている人たちまで、演劇経験は様々でしたが、みごとなチームができてしまった。もちろんトラブルもたくさんありましたが、それを乗り越えるルールがいつの間にか生まれてくる。それは人にやさしい、正しいルールであったと思う。一本の芝居を上演しようとすれば、小さな社会ができます。誰がどんな個性の持ち主なのかがわかってゆき、それぞれが最も良いポジションで働ける(芝居づくりに携わる)理想的な小社会が出現する。そのまちにいて、幸せだな…と思えるような「まちづくり」のヒントを「芝居づくり」はたくさんはらんでいる様な気がします。

足利ワークショップ
足利市でのワークショップの様子

 今年から和歌山市でも、足利市と同じ支援事業を取り組んでいます。どんなチームができあがるか…楽しみです。

(2007年9月21日 沖縄にて)



(※)筆者はコーディネーターとして参加。年間を通して様々なワークショップなどをおこないながら、2005年度「胸騒ぎの放課後」(金杉忠男=作・藤井ごう=演出)2006年度「翼をください」(ジェームス三木=作・加納朋之=演出)を上演。