@では、沖縄県内で24回もの公演が実現した「修学旅行」から、ご自身の学校で全校鑑賞に取り組み、また沖縄本島での一般公演にご尽力いただいた大城先生にご感想をお寄せいただきました。ABでは、それぞれ東京定例公演「藪の中から龍之介」とスタジオ結企画「鼬」の様子をご報告します。そしてCでは、ロシアのオムスクで堀口始が演出した清水邦夫=作「楽屋」の様子を、演劇評論家で日露演劇会議事務局長も務められている村井健さんにご紹介いただきます。



共感し、解放させてくる「修学旅行」
沖縄県立北部農林高等学校 大城尚志

 「興味ないけど授業受けなくて良いから」「俺どうせ寝るから」そんな事を言っていた定時制の生徒たちが、楽しそうに観ていた。沖縄公演最終日、名護市民会館主催の一般公演にやってきた定時制の彼等・彼女等のほとんどは、2年前の私の教え子たち。

 「修学旅行」の情報を定時制のK子先生に話したところ、彼等にどうしても観せたいという彼女の情熱が定時制の先生方を動かした。日頃から平和学習に取り組んでいるK子先生は、「楽しく穏やかに学ぶ事が定時制の生徒たちには必要だ」と思っていたに違いない。市民会館に観劇料を補助してもらい、学内の予算をあるものないものかき集めて用意した。演劇なんてほとんどの生徒が観たことがなく、この機会に本物を見せてあげられる。しかも彼等の目線に合った共感するものを。そんな強い思いの定時制職員集団。少人数でチームワークが良く、フットワークも軽い彼等だから実現出来たのだ。


名護市民会館終演後のロビー交流

 昼間の学校公演と違い、客層も観客数も違う。日頃から遠慮がちの彼等だから控えめな反応だけど、みんな喜んでいた。帰りがけにその楽しさを何人もが伝えてきた。ロビー交流にも10人くらい参加した。半分くらいおどおどして座っていたし、遠巻きに見ている者もいた。感じた事を伝えたいと思ったのだと思うし、伝えても良いんだと思ったのだと思う。そう言う事が苦手な彼等が、K子先生や私がうながすと素直に応えた。これが「修学旅行」の、青年劇場の力なのだと思う。共感し、楽しみ、解放させてくれるのだ。「俺たちも楽しい事したいなぁ」と一歩踏み出したい気持ちにさせてくれるのだ。



第97回定例公演
「藪の中から龍之介」
篠原久美子=作 原田一樹=上演台本・演出
9月12日〜25日 紀伊國屋サザンシアター ほか

大田区馬込で行われた文士村ツアー

 デモクラシーの高揚と忍び寄る戦争の影…大正という混沌の時代に翻弄され、自作と対峙し続けた芥川龍之介。天才ゆえの苦悩を新しい視点から描いた意欲作。俳優による芥川作品の朗読や文学ツアー等、各地で工夫をこらした集いも催されました。


左より
北直樹 大木章 広戸聡 ★


左より
北直樹 伊藤めぐみ 矢野貴大
大月ひろ美 葛西和雄 ★

【感 想】

○21世紀になって芥川さんを、もう一度見つめさせていただき、感慨深い思いです。教科書で見たもっとも印象的な作家だった芥川の心中を、主体的に表現してくださり、芥川作品を丁寧に再読したくなりました。今、彼は私たちに問いかけているものがある…と強く感じました。(50代・女性)

○私の想像するよりはるかに重い内容でした。「道徳」についてのくだりもハッとさせるものでした。現在と共通する部分がとても多くなっていますね。芥川文学をもう一回読み返してみたい…そんな想いが強くなりました。(60代・女性)



スタジオ結(YUI)企画 第2回公演
「鼬(いたち)真船豊=作 松波喬介=演出
12月9日〜21日 青年劇場スタジオ結(YUI)

左より
藤木久美子 小竹伊津子 ★
★舞台写真:蔵原輝人

 待望のスタジオ結(YUI)企画の第二弾。近代古典の名作を鮮やかに蘇らせました。人間の欲望、悲哀、滑稽さをベテランから中堅の俳優のアンサンブルで上演、小空間の緊密な舞台をご堪能いただけたのではないでしょうか。

【感 想】

○近代古典というものの、何と現代の世相とオーバーラップすること、しきりでした。「肉親のエゴをむき出しにした修羅相」が身近に感じられたことが不思議でしたが、人が生きる姿を見事に投影しているのだと思います。見応えのある作品でした。初めてのスタジオ結での鑑賞でしたが、大きな舞台とは違って、役者さんの息づかいまで感じられるのが何とも嬉しいです。(50代・女性)

○人々は、愚かしく、哀れで、滑稽で、ずるく、醜いのに、その一生懸命さに笑い、そしていつしか心打たれていました。最後、おとりに決然と立ち向かうおかじの姿に涙が出ました。スタジオ結の濃密な空間も気に入りました。(40代・男性)



ロシアのオムスクで「ナムナム」
日露演劇会議事務局長・演劇評論家 村井健

 08年9月、オムスクを発とうという日、私は心秘かに「ナムナム」をした。シベリアで「ナムナム」なんて、はたして効くのかどうか。しかし、まあ、気は心である。いいではないか。じつは、この「ナムナム」、演出家・堀口始さんのためだった。このとき堀口さんは単身ロシアへ渡り、オムスク市にいた。

 もっとも、オムスクといっても日本ではどこのことか分からないだろう。オムスクは、西シベリアの主都。あのドストエフスキーが流刑されたところである。人口約110万。7つの大学、8つの劇場を抱える文化都市。第五劇場はそのオムスクの代表的な劇場の一つだが、その劇場の依頼を受け、堀口さんは清水邦夫の『楽屋』を演出していたのである。


左・筆者 右・堀口始


オムスクの舞台

 別件でオムスクを訪れた私は、さっそく激励訪問。堀口さん自らが選抜した第五劇場の女優さんたちの稽古ぶりを拝見、びっくりした。モスクワ芸術座で数年前に上演された『楽屋』よりもはるかに面白いのだ。できれば初日を見たい。そう思ったが、私は次の目的地トムスクへ行かねばならない。で、思わず「ナムナム」となった。

 帰国後、堀口さんからFAXが来た。総立ちの拍手! 見事、成功したという文面だった。もちろん、これは「ナムナム」効果ではなく、堀口さんの実力。このFAXほど嬉しいものはなかった。写真は、その堀口さんと第五劇場の文芸部長パーシャさんと劇場前で撮ったものだ。


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