劇団きのうきょう


拝啓 高橋正圀様  葛西和雄(俳優)


「シャッター通り商店街」の舞台 中央が筆者
撮影:山ア美津留

 早いもので今年もあと僅か、一年間、大変お世話になりました。今年は「青ひげ先生の聴診器」に続き「結の風らぷそでぃ」「シャッター通り商店街」巡演があり、実に「高橋正圀年」でした。幸せなことに私も、青ひげ先生役、商店会長役で「正圀ワールド」を体験させてもらいました。

 何といっても青年劇場×高橋正圀コンビ第十作目「青ひげ先生の聴診器」公演中の大震災遭遇。3・11以降の公演は四回中止、打ち上げもできないままに終わり、何ともいえぬ浮遊感は今も続いています。戯曲化の素材提供者として、また観てくださった医療関係者はじめ周囲の評判に気を良くしていただけに、このまま終わり…ではあまりに淋しく、いっそ「震災以後」版での続編上演は…などと考えたこともありました。被災地での医療者の献身、対応の遅れる行政への憤りが、「青ひげ先生」の奮闘に重なって見えたからです。しかし、台本脱稿後、稽古場に現れた時のやつれた顔、「いやー医療は難しい!」と呟いておられたことを思うと、うかつにはお願いできない無理な注文?かもしれないのですが…。

 秋の「シャッター通り商店街」は、東京再演と、劇団からの要請に応じ引き受けてくださった商店会はじめ地域街づくりの団体・皆さんによる多様な実行委員会主催の巡回公演で現在進行形です。昨年の巡演から、初演には登場していなかった「地域に根差した金融」を自覚する信用金庫の職員が加わり、手前みそながら厚みが出てきた舞台。大いに笑っていただくとともに、地域破壊に抗する地域住民や取り組みに下支えがあれば再生の道もひらく!という可能性や希望でエールをお届けできるのは、嬉しい限りです。

 ところで、高橋正圀作品の特徴の一つが現代進行形…社会情勢に見合った台本の書き換え、特に今年は大震災後の巡演でしたので、大変気を使われたこととお察しいたします。

 6〜7月に正圀さんの故郷米沢でも上演された復興激励公演「結の風らぷそでぃ」は、九州が舞台ながら、消費者の食と農への関心が増大する中で、日本の農業の役割、どう未来に託すのか…観客の脳裏に被災地東北の農村風景がよぎり、日本農業の復興・安心・安全を願っていたことは間違いありません。

 さて、この次に高橋正圀ワールドと出会えるのはいつでしょう。心待ちにしています。

敬具



今を語り、夢を語り合える作品を全国に

 今年の青少年劇場公演は「修学旅行」「キュリー×キュリー」の2つの作品が全国を巡演しています。3・11の震災とその後の原発事故により、公演中止も心配された福島県田村市での「キュリー×キュリー」の公演は、「地震への恐怖や、放射能という目に見えない不安の日々の中で、子どもたちにひと時でもそれを忘れさせ、舞台を通して生きる希望や勇気、明日への活力を持ってもらえれば」という地元の皆さんの想いに支えられ、予定通り公演を行う事になりました。「放射能」という言葉にどんな反応が返ってくるのか、そんな私たちの心配を吹き飛ばす中学生たちの明るい笑い声と、真剣な眼差しに、公演が実現できた事の喜びと、改めて演劇の持つ力を感じました。


11月3日 福山おやこ劇場の皆さんと
「修学旅行」のメンバー

 学校公演の実現が厳しくなっている中、秋の「修学旅行」は学校だけでなく、子ども劇場や会館主催公演など、様々な公演を組み合わせ行っています。会員数がとても少なく、例会としては取り組む事は難しい子ども劇場が、どうしても取り組みたいという子ども達の強い声に押され、大人と子どもが一緒に知恵を出し合いながら公演を実現してくださるなど、こちらが励まされる公演もありました。

 来年はこの2作品に加え、新作「野球部員、舞台に立つ!」を3月東京で初演、秋からは全国を巡演します。青少年を巡る状況も貧困や格差など先行きが見えにくくなってきています。私たちはこんな時だからこそ、舞台を通して今を語り、夢を語り合える作品を全国に届けて行きたいと思います。