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第86回公演
ガルフ
GULF
−弟の戦争−
ロバート・ウェストール=原作「弟の戦争」(原田勝=訳・徳間書店刊)
篠原久美子=脚本 高瀬久男=演出 福島明夫=製作
美術=石井みつる 照明=河崎浩 音楽=車川千壽子 音響効果=石井隆 衣裳=宮本宣子 舞台監督=青木幹友 演出助手=荒川貴代 製作助手=川田結子  宣伝美術=コガワ・ミチヒロ


弟に起きたことは、
  みんな、
    ぼくのせいだったのかもしれない…。




世界中の人々の良心に衝撃を与えた
       ロバート・ウェストール原作!




時は1990年、ロンドン。
父は強くてたくましいラグビーの名選手。母は面倒見のいい州議会議員。
トムの家族は理想的な家族だった。ただ一つ、時おり見せる弟の不思議な行動を除けば・・。

弟のアンディは、木から落ちた子リスや、新聞に載っていたエチオピアの難民の子にとり つかれたように悲しみや苦しみを訴える。「ねえ助けてやってよ、お願い」と。
それからアンディは「夢」を見る。そして北極の生活や南の島の人々の様子を、まるで見 てきたかのように話す。
トムはそんなアンディを「フィギス」と呼んでいた。フィギスというのは、トムが幼い頃 作り出した目に見えない友達の名前。トムはフィギスの「夢」を夢中になって聞いた。

ある晩、フィギスが子ども部屋で、トムの空気銃を持って座っていた。
「おい、どうしたんだよ!お前、銃、嫌いだったくせに・・・」
トムが叫ぶと、フィギスはこうつぶやいた。
「俺の名は、ラティーフ。イラクにいる。」
湾岸戦争がはじまった時だった。
いつもの「夢」が始まったと思い、ゲームのつもりでいたトムは・・・。




「GULF」― 闇への跳躍 ―
篠原久美子
演出家の高瀬久男さんから『弟の戦争』と題する一冊の本を手渡されたときの奇妙な感触は忘れがたい。薄いはずの本が重かった。しかも濡れているような湿り気を感じ、 本から手、手から胸にひやりと重い冷たさが走った。「トンデモない本…」読む前にそう思えた。

どちらかといえば、私はオカルト的なものを信じない人間だ。自然現象なり、人間の心理・体のある状態なりを「超常現象」とみなす深層を思索する以上の興味は私にはない。 この本との出会いの感覚も、私は自分の心理状態を分析することで終えた。戯曲を書き始めてからも、他者に感情同調して時空を超えてしまう弟の能力はなんの象徴かを 論理的に考え、テレビの戦争であった湾岸戦争をどう舞台化するかの戯曲構造に腐心した。しかし、そうしてできた戯曲を高瀬さんは「土に埋めてもう一度原作を読み直して ください」と静かに言った。本を最初に受け取った時の、重い冷たさが蘇った。

かくして、湾岸戦争について相当に調べた事が前面に出、「弟」の為す超常現象を想像力のたとえとした、理の勝った戯曲は土に埋まり、代わりに人間の奥底の暗闇から、 ざわざわと触手を伸ばす「なにものか」が這い上がってきた。これが文字通り、ぞくぞくするほど興奮する体験だった。原作者、ロバート・ウェストールの世界がグンっと 音を立てて近づいてきた。この作品は「湾岸戦争時に弟がイラクの少年兵になってしまった」という反戦作品の範疇にとどまるものではなかった。もっとずば抜けた 「闇への跳躍」が、この原作にはある。私が戦争に捉われていたとき、高瀬さんはそこを見据えていたのだ。

ウェストールは想像以上に「トンデモない」作家だった。闇も深ければ光も濃い。
この原作は実存主義の私を初めて「この世には科学では計り知れないものがある」という視点に立たせた。おそらく、かつて私が一度も書いたことがない作品だ。
ロバート・ウェストール
(Robert Westall)
(1929〜1993)
イギリス・ノーサンバーランドに生まれる。美術教師として教えるかたわら、一人息子のために書いた処女作「機関銃要塞の少年たち」(評論社)が カーネギー賞を受賞、児童文学作家としてスタートする。「かかし」(ベネッセ)で再度カーネギー賞、「海辺の王国」(徳間書店)では ガーディアン賞を受賞し、「児童文学の古典として残る作品」と評された。
生涯に40冊近い作品を残し、現代イギリス児童文学を代表する作家として評価が高いが、同時に、イギリスでは、子どもの読者による人気投票でも常に上位を占めている。
(徳間書店「弟の戦争」より)





出演者

高安美子

千田京子

杉本光弘

北直樹

崎山直子

船津基

清原達之

相楽満子

岡山豊明

反田孝幸
(文学座研修科)




アンケートから
久しぶりに腹の底から湧きあがる衝撃(感動)を受けました。現代の複雑な世相、人々の感情の矛盾を舞台に 表現していただき、その異常さにやはり何とかしなければと思いました。(女性)
素晴らしい舞台でした。声高に戦争批判をしているわけではありませんが、戦争そのものの非人間性と戦争を なし崩し的に許してしまう日常性の危うさを強く感じました。(50才・男性)
知ろうとしなければ何も見えず何も聞こえない。世界の不公平さ!演劇だからこの不公平さを強く訴えることが できるのだと思いました。(51才・女性)
すぐれた「想像力」こそ、みせかけの愛情や大げさな大義名分を見抜く大切な働きだと実感しました。 (73才・男性)
子どもの文学作品で、どの図書館、図書室にも置いてある本なのですが、舞台になるとまた別の味わい、 深さがあります。(38才・女性)
すごくこわかった。「戦争」というのは自分には大きすぎる問題だけど、よく考えなきゃいけないんだと思った。 難しい所もあったけど、とても感動した。戦場の想像とか、すごくこわくて不安になった。(14才・女性)
戦争で苦しんでいるフィギスと戦争を応援する父の姿の対比がとても印象に残りました。(14才・男性)
人間にとって、フィギスは大変恐ろしい存在かもしれません。直視しないからこそ、忘れてしまえるからこそ 耐えられるからです。(44才・男性)
世界に溢れている溝に橋をかけるために、迷える子リスから目を背けないために、戦争や貧困とは無縁の生活をしている私たちが できることは何だろう?と考えさせられ、トムの思いを受け止めて、世界で起こっているさまざまな出来事の真実を理解していきたいと思いました。(21才・女性)
おしよせる莫大な情報の中で生きていく難しさを改めて痛感しました。真の情報はテレパシーでもない限り、 得られないのかもしれません。こんな時代に生きる核家族のあり方、偏った情報と教育しか得られない国に生きる家族のあり方・・・。これからの子どもたちに、 まず私が真実を追究した上で、情報を選択して伝えられるか。100%は無理でも垂れ流しに情報を与えることはできない。そういうことを常に考えている大人でありたい。 (30才・女性)





(舞台写真:蔵原輝人)


adapted from GULF by Robert Westall
Copyright C 1992 by THE ESTATE OF ROBERT WESTALL
The Japanese language live stage performance rights arranged with The Estate of Robert Westall
in care of LAURA CECIL LITERARY AGENCY, London through Tuttle-Mori Agency, Inc., Tokyo.