第十回
「演劇鑑賞会を実施して」
作新学院高等学校教諭 松久 武
6月22日(水)23日(木)の両日、演劇鑑賞会を実施した。作新学院高等学校では、実に十数年ぶりの実施となった。
今回の催しが成功であったことは、見終わった生徒の表情からも窺うことができた。
我が校は、英進部・総合進学部・情報科学部という3つの部から構成され、約3600名の生徒の通う大規模校である。
青年劇場から創作劇「キュリー×キュリー」の上演の交渉に来校されたのはちょうど1年前のことであった。
この劇は、ラジウムの発見者でありノーベル賞受賞者としても有名な、キュリー夫人とその夫の物語である。
当時本校は、文部科学省に「SSH(スーパーサイエンスハイスクール)」の指定校資格を申請中でもあり
(その後正式に申請の許可がなされた)、劇の内容も申し分なく、さらに我が校には全国高等学校演劇研究大会優秀賞の実績を持つ演劇部があることなどから、
実施を前向きに考えたいと思ったものの、全校生徒を収容する会場の問題・上演回数・予算等の関係から即答は難しかった。
しかし、劇団の再三にわたる熱心な説明により、上演を決定した。
実施にあたっては、「情操教育の一環としても生徒全員に鑑賞の機会を持たせたい」という校長の決断に依るところが大きかった。
3部の行事調整による実施日の決定、会場の選定、生徒移動の安全確保、また東日本大震災の影響による節電の問題など、
懸案事項はいくつもあったが、3部代表者による調整で、約1000名収容出来る会場において2日間で午前・午後の4回公演が決定された。
予算も学校側の理解で、生徒の負担を極力抑える事ができた。また、当日に備え、ホームルームで演劇鑑賞マナーを徹底し、
生徒会発行による「生徒会だより」に演劇部顧問による「演劇鑑賞の心得・極意」を書いてもらって、
生徒達の演劇鑑賞に対する興味を促すなど、全校を挙げて事前指導を行った。その甲斐もあり当日は大きな問題もなく、上演は成功裏に終わる事ができた。
3部の生徒の反応はそれぞれではあったが、上演を知らせるベルを合図に会場の照明が落とされると、
期待と興奮は一気に高まり、照明とともに眼前に広がる舞台装置の素晴らしさに息を呑み、
役者の登場で舞台に引き込まれていく様子はどの回も同様で、いつしか会場は役者の「創造力」と生徒達の「創造力」が一体となって、
終了時には惜しみない拍手が送られていた。
昨今、「学校演劇」を取り巻く、環境は厳しくなっていると聞く。背景にはさまざまな問題があると思われるが、
安価で手軽に楽しめる情報機器の普及と、生徒の価値観の多様化が挙げられる。
さらに、景気の悪化による予算の削減などもあろう。
しかし、同時期に同じ空間で感動を共有できる演劇鑑賞は、感受性豊かな年代の生徒達にはまたとない貴重な経験であろう。
そして時が経つにつれて、その感動は「生きる力」になり得る可能性を持っている。
そこにこそ、「学校演劇」の大きな魅力があるのではないだろうか。
関係の方々には、どうか、さらに素晴らしい演劇を創作していただき、次代を担う若者たちに、大きな感動とともに「生きる力」を与え続けて欲しいと切に願うのである。
(2011年12月)
※執筆者の冒頭の肩書は、当時のままになっています。
現在の肩書が分かる方は、文章末尾に表記しています。