第十八回

「クラス劇づくりの大切さ」


東京都高等学校演劇連盟事務局長
東京都立飛鳥高等学校教諭   平林 正男

 都内初の全日制普通科単位制高校として開校した飛鳥高校、今年20周年の時を迎えました。 私が着任したのはちょうど10周年の時。思春期から成人までの半生をともに過ごしてきました。 飛鳥高校が演劇、表現活動にとりくむ枠組みは、既に開校時に仕掛けられていました。 新しい学校として多様な選択科目を設定、その中に「演劇」の科目を4講座設置。 また文化祭ではクラス劇コンクールを開催。一部形は変わりましたが、現在も2年次生の全クラスが劇づくりに取り組みます。 その創作の参考にもなればという意味もあり、芸術鑑賞教室は毎年夏に演劇鑑賞を行っています。 卒業までの3年間で、近くの公共ホールで鑑賞する年が2回、演劇専門のちょっと大きな劇場で見る年が1回、と計画を立てています。 鑑賞後には、希望者によるバックステージ見学や役者さんとのアフタートークなどもできる限り行っていただき、秋に控えた文化祭に向けてのヒントをたくさん受け取る機会ともしています。

 このクラス劇づくりをさらに充実させるため、友人の演出家にお願いして、着任した年より「演技講習会」を文化祭の直前に始めました。 ある程度お話ができあがったけれどもう一捻り何とかしたい、船頭多くて山に登りそうな状態の船の行く先を定めたい…そんな要望に応えてもらっています。 この講習会を始めてまもなく、国のコミュニケーション教育推進事業が始まりました。この演技講習会を発展させて、 クラスの集団作りや他者理解そしてコミュニケーションの深化をねらいとし、内容や体制を見直してこの事業に取り組んでいます。 このねらいはクラス劇づくりの目的とも合致するものと考えています。

 正直なところ、この劇づくりの取り組みがなかったならば、このように毎年の芸術鑑賞教室が演劇のみで続くことはなかったことでしょう。 いま少なくなってきているクラス劇づくりの活動をさらに継続発展させることが大切と感じます。 劇づくりは、一人ひとりが違う存在であること、ことなる価値観を持っていることを知り、 またさまざまな分野を総合した活動であることなど教育的にとっても意義あるものと思います。 一方、先生方の中には劇づくりに寄り添った経験がなく、指導に戸惑い持たれる方も多くいらっしゃいます。 だからこそ、その支援のできる仕組みを整えることが必要です。演劇の鑑賞教室はその仕掛けのひとつになっているものと考えます。

 さて、このクラス劇づくりを経験した本校の卒業生がひとり、大学生活を経た後、現在、青年劇場にお世話になっております。 高校時代の経験は彼女の人格形成にどんな影響を与えたのでしょうか。先日の※「てよ」企画上演の際に、出演者の高校生たちに今の思いを熱く語り、 その言葉を高校生たちが輝く瞳で受け止めるやりとりを目の当たりにしたとき、彼女にとっての高校時代はとても充実したものであったのだろうと確信しました。

※「てよ企画」
(「青年劇場が高校生と芝居作るってよ」企画 )
上演作品=「裸電球に一番近い夏」
作=古川健
演出=藤井ごう+青年劇場の俳優による演出チーム(清原達之・岡山豊明・船津基)
2015年5月
創立50周年記念青年劇場ユースフェスティバルとして初の試み。
19の高校から28名の参加。
撮影:V−WAVE


(2015年7月)

※執筆者の冒頭の肩書は、当時のままになっています。
現在の肩書が分かる方は、文章末尾に表記しています。




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