9月第104回公演「普天間」


 9月公演は、青年劇場が初めてタッグを組む坂手洋二氏による待望の書下ろしです。常に社会に切り込む鋭い視点を持った作風で話題を呼んできた坂手氏ですが、とりわけ「沖縄三部作」に代表されるように沖縄の人々への熱い思いをライフワークとして描き続けてきました。沖縄戦、復帰闘争、日米安保条約、そして米軍基地…戦後日本の様々な矛盾が、すべてこの小さな島に凝縮されているとも言われます。坂手氏は「沖縄の心が本土の人々に届くような舞台にしたい」と語ります。今回の上演によせて、劇作家・演出家のふじたあさや氏に作品への期待をいただきました。
 演出は、昨年秋に好評を博した『島』(作=堀田清美)の藤井ごう氏。気鋭の二人とともに描く“沖縄の魂(ココロ)”、どうぞご期待ください!


福島から普天間へ     ふじたあさや

 普天間のことは、誰かが書かなければいけない、と思っていた。坂手さんが書く、それも青年劇場の依頼で、と聞いて、これ以上の取り合わせはないと思った。

 ぼくは青年劇場とは、1983年に『臨界幻想』を書いて以来のおつきあいである。30年前の舞台をご記憶の方は多くないかもしれないが、福島第一原発を舞台に、希望に燃えて原発に就職した若者が、被曝して命を落としたのを、死因に疑いを持った母の眼で追及していくという芝居で、小竹さんの演ずる母のリアリティーあふれる演技と、千田是也先生のシャープな演出が、印象的だった。原発問題を問題として描くのでなく母物として描こう、というのが千田先生とぼくのねらいだった。下請け労働者の被曝などお構いなしという東電の体質は、やがて大事故を引き起こすことになるだろうと、警鐘を鳴らす狙いで、劇の最後はあきらかに炉心溶融がおこって、放射能が撒き散らされるという場面になるのだが、結果としてそれは、チェルノブイリ事故を予言し、今回の福島の事故を予言したことになった。そのころは、原発安全神話がまかり通っていたから、私たちの芝居は、国の政策に反するプロパガンダか、いいところSF扱いだった。それでも、原発所在地、予定地を巡演した中で、いくつか原発建設を断念したところが出たのは、われわれの芝居のせいだけとはいわないが、してやったりという思いがした。

 『臨界幻想』の経験で、世の中に異議申し立てをしたい時の道連れとして、青年劇場が頼りになる劇団だとわかって、それから三本、ぼくは青年劇場と共同作業をした。いずれも千田先生の演出で、成果はそれぞれだったが、千田先生もぼくも、こういう芝居なら青年劇場だよな、という劇団に対する信頼は揺らぐことはなかった。

 今、世の中に異議申し立てをする作家の、先頭を走っているのが、坂手洋二さんである。ぼくの最も信頼している作家のひとりである。その坂手さんと組んで、信頼している青年劇場が沖縄に挑戦する。坂手さんも、問題を問題のままに描く作家ではない。人間を通して描くのは勿論だが、ときにそこに見えないものの目が重ねられていたり、残酷な時間が重ねられていたり、単純ではない。沖縄を描いたこれまでの作品でも、キジムナーの存在やら、死んだ米兵の存在やらが、世界の向こうに透けて見えることで、坂手さんは今まで誰も達しなかったところまで、ぼくらを連れて行った。普天間を描く今度の作品が、僕らをどこに連れて行ってくれるのか、期待が持てる。坂手さんが突き付けている刃は、いつも自分自身に、われわれ自身に向けられている。「で、おまえはどうなのよ」と居心地の悪い思いを、いつも味あわせられる。だからぼくは彼を信頼する。自分のことをさておいて批判ばかりする奴は、信頼できない。その坂手さんが、青年劇場と組んで、こんどはどんな異議申し立てをしてくれるのか、開幕が待たれる。




「沖縄」連続学習会IN青年劇場スタジオ結!

劇団では秋の「普天間」公演に向け、沖縄の歴史と現在を知る連続学習会を行っています。多彩な講師陣によるお話は、どれも普段めったに聞けないものばかり。一般の方にも公開しています。ぜひ足をお運びいただき、さらに「普天間」公演成功へのお力添えをいただければ幸いです。

☆第一回 5月8日(日)<沖縄戦から「普天間&辺野古」まで>
  講師:大城将保さん(筆名/嶋津与志さん)

 歴史研究者であり、映画「GAMA−月桃の花」の脚色など作家としても活躍中の大城将保さんをお迎えし、琉球時代の島の歴史から沖縄戦、本土復帰、そして現在の基地闘争に至るまでの沖縄の歴史をお話しくださいました。華やかな琉球文化や島の人々の明るさの一方で、基地問題など、未だ解決を見ない多くの矛盾への怒りと哀しみが伝わってくる内容でした。


☆第二回 6月11日(土)<沖縄メディアと本土メディア>
講師:仲井間郁江さん(琉球新報東京支社記者) 牛島貞満さん(小学校教諭)

 沖縄の基地の実態は、なぜ本土の人々に伝わらないのだろうか――。琉球新報の仲井間さんは、東京に来て、同じ報道に携わる人々でさえ沖縄の姿を正しく理解していないことなど、沖縄と本土のギャップを、実感をこめて語ってくださいました。
 また沖縄戦を子どもたちに伝える活動を続けられている牛島さんからは、2004年、沖縄国際大学に米軍のヘリコプターが墜落した事件の報道を、“本土メディア”と“沖縄メディア”を比較し、映像を交えながらお話しいただきました。お二人のお話から、あらためて私たちを取り巻く報道のあり方を考えさせられました。



次回

☆第三回 7月19日(火)<米軍政下 アメリカ世(ゆー)の記憶>
講師:森口豁さん(フリージャーナリスト・「沖縄を語る一人の会」主宰)

※8月も計画中!ご期待ください。






坂手洋二
〔さかてようじ〕

(撮影=鏡田伸幸)

劇作家・演出家。燐光群主宰。1983年、燐光群を旗揚げ。ジャーナリスティックな視点と卓越したアイデアに溢れた作品が、国内外で評価が高い。『屋根裏』『だるまさんがころんだ』等により、岸田國士戯曲賞、鶴屋南北戯曲賞、読売文学賞、紀伊國屋演劇賞、朝日舞台芸術賞、読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞。戯曲は海外で10以上の言語に翻訳され、出版・上演などされている。日本劇作家協会会長。日本演出者協会理事。社団法人国際演劇協会(ITI/ユネスコ日本センター)理事。
<坂手洋二・沖縄三部作>

◆『海の沸点』
(地人会/演出・栗山民也/1997年)
撮影:谷古宇正彦 提供:地人会新社

過去も現在も被害を受け続ける沖縄の現実を、国体で日の丸を燃やした男とその家族、周辺の人々のありふれた日常をえがくことにより浮き彫りにする。

◆『沖縄ミルクプラントの最后』
(燐光群/演出・坂手洋二/1998年)
撮影:大原狩行 提供:燐光群

米軍撤退を望む一方で、基地内のミルク工場の閉鎖により職を失うことを恐れ、矛盾に苦悩する日本人労働者の姿を描き出す。


◆『ピカドン・キジムナー』
(新国立劇場/演出・栗山民也/2001年) 撮影:青木司 提供:新国立劇場

広島で被爆し沖縄へ帰郷した「ウチナーンチュの被爆者」と、本土復帰時代の沖縄の家族の姿を通じて、沖縄返還に隠された歴史の真実を見つめ直す。

※これらは坂手洋二戯曲集『坂手洋二U(沖縄三部作)』としてハヤカワ演劇文庫より刊行されています。

ページトップへ