いのちの交差点のような
「青ひげ先生の聴診器」が楽しみです

医事考証  山本一視

 6年ぶり、生涯2回目の「医事考証」です。前回の「ナース・コール」が大好きで一生もののお宝体験をさせていただいたと思っていましたのに、またもや素敵な体験をさせていただくことになり青年劇場に感謝感謝です。

 この6年間の医師をめぐる変化は、なんと言っても「医師不足」「医療崩壊」という事態が表面化し、医師自らがそのように主張したことだと思います。「ナース・コール」の椿医師が過労(院内感染?)で倒れてしまうのは美談でしたが、今なら「笑えない話」となってしまいます。そうなった原因は、医学医療の中身は進歩、複雑化、内容膨大というのに、30年来の医師数抑制、医療費抑制政策にもってきて国立大学独立行政法人化(稼がなくてはいけなくなりました)。どこもかしこも病院は医師の悲鳴が響く状態で、救急指定病院などは「ナース・コール」よりもずっと前から返上/消失の一途だったわけです。大学の内情の過酷さは、この10数年で30歳代から40歳代の大学病院の医師がごっそりいなくなり、その分、入院患者も当直もない開業医がふえていった状況に現れています。「精も根も尽きるような働き方をせずとも患者の命を守れるような時代になってほしい。」日本の勤務医たちの間の切実で共通な願いです。

 さて、そのような時代に「青ひげ先生の聴診器」。赤ひげばかりをもとめてはいけないのでは、と思っていたのでいいタイトルだなあと思っています。1月の某日、作家、演出家と劇団の方々との打ち合わせがあり、その後、場所を移してさらに「検討会」。そこには、あの「笑って死ねる病院」の柳沢深志医師、私がもっともこの芝居にふさわしい相談相手と内心思っていた川崎協同病院の和田浄史医師が同席してくださいました。もっとも深まったのは「風間の心が折れるのはどういう状況だろうか」という点。風間が大学病院での単なる「エキスパート」から本当に患者がよくなることこそが一番うれしい「プロフェッショナル」に覚醒していく話になるのかもとか、青ひげの病院の研修医彩乃と都会の研修医太郎のコントラストもあるのでは、などなど、勝手に登場人物の内実がふくらみ、動き出していく、そんな楽しい「検討会」でした。

 個人的には、第一稿を読んで、生命のときの流れが脈打つ芝居だなあと感じています。命の終着をみつめてadditional timeを生き抜く青ひげ。その周囲で、お千代さんの人生がどうどうと流れ、青ひげの「命を受け継ぐ」準備に入りつつ人生これからの太郎。おなじくこれからが本番の彩乃。風間が50歳にして覚醒していくのも、仕事人としてというより人としてのたくましい生命の流れを感じます。新しい命の誕生こそでてきませんが、そういう人たちが、いわば定点観測者のような夢子、吉沢たちと創りだすいのちの交差点のような物語。本番までどのように練り上げられていくのか、楽しみです。

(やまもとかずみ 福岡・千鳥橋病院医師)