はじめに

 学校での演劇鑑賞は終戦の翌年1946年から日本独自の公演形態として始まりました。 その後先生方と劇団との協力の中でこの機会が子どもたちの「全面的な成長」を保障する上で有効との認識の下、全国の学校に広がっていきました。

 ところが公益社団法人日本劇団協議会の学校公演上演記録によると、1990年代後半から公演回数が減少し始め、 その傾向は今日まで続き、その存続は現在危機的状況とまで言われています(こちらを参照)。

 ではその1990年代後半はどんなことがあったのでしょうか。1997年には消費税が3%から5%に上がり、1992年から週5日制が月に一度導入され、以降段階的に増え、2002年から完全5日制に移行しています。

 演劇鑑賞の阻害要因は予算問題と「行事の精選」と指摘されています。予算問題に関わることでは「子どもの6人に1人が貧困状態」にある上に、 消費税のさらなる増税が計画され、鑑賞予算が基本的に父母負担で成り立っている現状では深刻さは増すばかりです。 「行事の精選」では、競争主義的教育の一層の強化の中で、多くの行事が授業時間の確保のために整理縮小され、演劇鑑賞もその対象になっています。

 青年劇場では学校の鑑賞予算の減額に伴い、公演の編成人数の削減等様々な工夫をして対応してきました。しかし、今日ではそれでも予算的に厳しい学校が増えているのが現状です。

 このような事態に直面し改めて、なぜ学校教育の中で演劇鑑賞を必要と考えるのか、もう一度その原点に立ち返っての議論が求られているのではないかと思いました。 そこで劇団と学校・先生方が交流し合う場を作れないかと考え、青年劇場の青少年劇場通信紙上で「演劇鑑賞教室を考える」という連載を2006年から開始しました (2012年より劇団活動全体をご紹介することから、「青年劇場通信」として装い新たに発行)。 お寄せ頂いたものを読み返してみても、困難を抱えながらも懸命に支えていらっしゃる先生方の実践、今日の教育に疑問を抱き新たに演劇鑑賞を開始した学校の実践があり、 あるいは地域や教育学の立場からの学校での演劇鑑賞に期待する声もあります。また、単独で継続実施している学校、地域の学校と連携し、 ところによっては行政の支援を受けながら長い歴史を持つ合同鑑賞教室の実践等、様々です。

 学校教育に演劇鑑賞は必要なしと答える先生はまずいません、むしろその必要性を説く先生方は多いでしょう。しかし、具体化の段階になると「現実的には厳しくて・・・」と、 それ以上話が進まないことがしばしばです。

私たちは現在の学校教育の中で演劇の果たせる役割はけっして小さくはなく、逆に今こそもっと注目されてよいのではないかと考えています。

 今回、劇団創立50周年を機に、連載「演劇鑑賞教室を考える」を冊子にまとめ、同時にホームページでも公開することにいたしました。 この連載はこれからも続けていくつもりです。 連載をきっかけに学校での演劇鑑賞の持っている可能性、必要性等が多くの先生方、多くの人たちの中で語られ、 その結果演劇鑑賞を考えてみようとする学校やそれを支援する自治体が少しでも増えてもらえればと願うばかりです。


2016年3月 青年劇場

※執筆者の冒頭の肩書は、当時のままになっています。 現在の肩書が分かる方は、文章末尾に表記しています。



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