2012年ラインナップ  今年は、3月「青ひげ先生の聴診器」では大震災に見舞われ、9月「普天間」では台風の直撃を受けるなど、自然の猛威を見せつけられた年となりました。同時に、いまだに収束をみない福島の原発事故、そしてTPPや普天間基地移設問題など、私たちの暮らしに直結する問題が山積みにされています。その中にあって、私たちは演劇を通して何を共有しあえるのかを改めて考えさせられた一年でもありました。
 さて、2012年は下記の作品をお届けします。現実を告発するものや人間のいとおしさを描いたものなど、実にバラエティに富んだラインナップ。来年もぜひ劇場にお運びいただき、演劇の魅力をご堪能ください!


東京公演

3月 第105回公演
「野球部員、舞台に立つ!」
竹島由美子=原作「野球部員、演劇の舞台に立つ!」(高文研刊)
福山啓子=脚本・演出
3月14日〜18日 紀伊國屋ホール

福岡県大会で優勝した西日本短期大学附属高校のナインたち
(2004年・同校提供)
西日本短期大学附属高校の実践をまとめた原作を、「博士の愛した数式」で厚生労働大臣賞を受賞した福山啓子が舞台化します。
一見あり得ないような野球部と演劇部のコラボレーションから何が生み出されるのか…。
どうぞご期待下さい!

甲子園の先にあるもの
西日本短期大学附属高校 野球部監督 西村慎太郎

 「甲子園の先にあるものを僕たちに見せてくれた甲子園は、やはり最高の場所でした」
 これは2004年、甲子園に出場した野球部員の言葉です。野球部の進むべき方向を示唆してくれたこの言葉は、我々の誇りであり財産です。
 演劇部との交流が始まる前、「自分の時間を割いてまで、何故後輩の指導をするのか?」と演劇部の先輩に聞いたことがあります。その時彼らが言った「自分が学んだことを後輩たちに伝えずにはいられない」という言葉に、私は頭をガーンと殴られたような衝撃を受けました。当時、野球をやるために学校に来ている生徒ばかりで、自分たちだけが一番苦しく、つらい練習をやっているという考えに野球部全体が陥っていたように思えます。しかし全く違う世界を体験させてもらうことで、「他者を認める」というすばらしい力を獲得した生徒たちは、やがて相手への心配りや優しさを素直に外に出せるようになりました。「人を認め、人の役に立ちたい」と動き始めたとき、彼らは大人が想像していたものをはるかに超える能力を発揮します。そして、その思いが引き継がれ、部の中に伝統が作られていきました。
 この9年間、グランドだけでなく演劇の舞台でも、生徒たちから心揺さぶられる瞬間を与えてもらいました。そして、そんな私たちの体験が舞台化されることは私たち野球部の大きな喜びです。生徒たちの忘れられない青春の日々を、再び見せてもらえることに心から感謝しています。


5月 第106回公演
「臨界幻想2011」
ふじたあさや=作・演出
5月18日〜27日 紀伊國屋サザンシアター 他

30年前、被曝労働の実態と原発事故をリアルに描き、全国の原発所在地や立地予定地を巡演し反響を呼んだ「臨界幻想」(千田是也=演出)。今、福島原発事故を前に、作者自身が新たな視点で改訂し、問い直す注目の舞台です。

新しい「臨界幻想」に期待しています。
門馬昌子

 30年前、私たち実行委員会は「臨界幻想」を成功させるために必死でチケット売りをしていました。浪江町は原発立地町の双葉町や大熊町の隣町で、原発城下町であり、雇用や商業の点で大勢の町民が関わっていたため、この演劇を観に大勢来てくれるかどうか心配だったのです。しかし公演当日、町の体育館いっぱいの800人という入場者を迎えたのです。町民は心の底では「やはり原発は危ないのではないか?」と思っていたのだと思います。

1981年「臨界幻想」の舞台
 「臨界幻想」の最後の、原発事故を知らせる広報車の場面は、30年後の今年3月12日に事実となってしまいました。しかも私たち浪江町民はSPEEDIの予測が町役場に伝えられなかったために、浪江町で一番放射線量の高い地区に避難させられてしまったのです。新しい「臨界幻想」が、国から棄てられ、警戒区域として、自宅に戻れるのは何年後になるかもわからず、友人たちから切り離され、仕事を奪われ、厳しい仮設住宅や借り上げ住宅で暮らす浪江町民の苦しみや、広範囲に及ぶ放射線被害や風評被害を広く日本中の人々に知っていただき、すべての原発を廃炉にし、再生可能エネルギーで発電する国になる流れを作る源になるよう、大いに期待しております。

※門馬昌子さんは福島県浪江町にお住まいで、1982年の「臨界幻想」浪江町公演の際には実行委員としてご尽力くださいました。3月の福島原発事故のあと転々と避難され、現在は都内のアパートにて生活を送られています。


7月 スタジオ結企画 第3回公演
「明日、咲くサクラ」(仮題)
森脇京子=作 板倉哲=演出

限られた客席で濃密な空間を共有するスタジオ結企画の第三弾は、森脇京子さんの新作書き下ろし。「17才のオルゴール」「鮮やかな朝」で女性ならではのやさしさ、そして鋭さを表現した作者が、ファンタジックに「今」を捉えます。


9月 第107回公演
「十二夜」
W・シェイクスピア=作 松波喬介=演出
9月14日〜23日 紀伊國屋サザンシアター 他

未知の世界へ進んでいく人間の力強さ、人と人が関わりあうことの喜びや哀しみを、ダイナミックに描き、常に世界のどこかで上演されているシェイクスピア作品。青年劇場は1964年、「真夏の夜の夢」の学校公演で幕を開けました。様々な意味で生きる価値観が問われている現在、シェイクスピア作品の中でも、人間のいとおしさと愚かさを余すところなく描いた喜劇「十二夜」を青年劇場ならではのアンサンブルで作り上げます。

『シェイクスピアのすべての作品をつらぬいているテーマは、古臭い道徳と、いっさいの封建制をうちくだく新しい世界観の肯定である』(土方与志)

 ルネサンス期―古い因習的な価値観が終わりを告げ、人間が人間らしく生きるための新たな価値観が大衆によって生み出されていった力強い時代に、シェイクスピア作品は生まれました。大震災、そしてそこから派生した様々な問題の中で混迷する現代。「新しい世界観の肯定」を謳ったシェイクスピアの舞台は、はるかな時を超え、私たちに希望と力強い励ましを与えてくれるものになるでしょう。
 青年劇場第一回公演「真夏の夜の夢」(1965年)のパンフレットには、次のような文が記されています。この創立の初心を受けついだ舞台にどうぞご期待ください!

 「血の気の多いシェイクスピア」ということばがあります。
 わたくしたちもそのようなシェイクスピアを上演したいと思います。
 ベトナム問題をはじめ、わたくしたちの日常の生活のさまざまな場面に至るまで、血の気がうすく、消極的で保身的ないしは無関心であってはならない問題があまりにも多いきょうこのごろです。
 偉大な変革期―ルネッサンスが生んだシェイクスピア。古い世界と新しい世界との対決の中に、新しい人間性のたくましい誕生をうたいあげたシェイクスピア。
 わたくしたちは、シェイクスピアの主人公のように、人間であるということが、新しい世界に向って行動し、変革することであるという、そのダイナミズムと楽天性につらぬかれた演劇活動をおしすすめたいと思っています。


全国公演

「修学旅行」
畑澤聖悟=作 藤井ごう=演出
5月〜7月 近畿 他

「キュリー×キュリー」
ジャン=ノエル・ファンウィック=作
岡田正子=訳 板倉哲=演出・上演台本
5月〜7月 関東 他
10月〜12月 九州・中国 他

「野球部員、舞台に立つ!」
10月〜12月 九州・関東 他

「普天間」
坂手洋二=作 藤井ごう=演出
11月〜12月 全国

「修学旅行」  撮影:宮内勝

「キュリー×キュリー」撮影:蔵原輝人

「普天間」   撮影:谷古宇正彦