青年劇場にて演出の機会をもらうたびに「心の痛み」について考える。
そして心とは目に見えない象徴的なものでなく、
物理的に痛みを感じることのできる、
非常に身体的なものであると気づかされる。
そして今回もまた、移動中の電車の中で「鮮やかな朝」
の台本を読んだとき、
身体的実感として、胸のあたりが締め付けられ、
痛み、そして電車という公共の場にいることに苦しみを覚えつつ、
目の前にある日本社会について考えた。
絵画や文学、映画や演劇は、
心の存在を体感する機会を提供するものである。
想像力を介して、
痛みも含めた心の動きを身体的に体験することが
できるのが芸術であるからこそ、芸術には、人が人を傷つけ、
人が人の尊厳を奪ってしまうような未来の構築を阻止できる力がある。
コロナ禍の一日でも早い終息を願いつつ、
芸術の灯火を消さぬよう、過去の同じ過ちを繰り返さぬよう、
この作品創造に取組もうと思う。
2021年2月、
観客の皆さまと劇場でお会いできることを楽しみにしております。
大谷賢治郎(演出)
大谷賢治郎(おおたにけんじろう)
演出家。
1972年東京都出身。サンフランシスコ州立大学芸術学部演劇学科卒。
company ma主宰。
児童劇から人形劇、古典から現代劇、市民劇から国際的コラボレーションなど様々な形態の舞台芸術を演出する。
アシテジ国際児童青少年演劇協会の世界理事として、国際的な児童青少年のための舞台芸術の発展のために力を注ぐ。
東京国立博物館の演劇的ガイドツアー、国内外での演劇ワークショップなど行なう。
現在、桐朋学園芸術短期大学特任講師、東京藝術大学非常勤講師、東京都立芸術総合高等学校非常勤講師を務める。