≪座談会≫

「修学旅行」「3150万秒と、少し」
東京再演に期待すること

 来る7月14日〜18日、青年劇場は「夏の特別企画連続公演」と題して「修学旅行」「3150万秒と、少し」の2作品を、東京で上演します。「修学旅行」は2007年、「3150万秒と、少し」は2005年に初演したのち全国を巡演。北は北海道から南は沖縄まで、中学生・高校生を笑わせ、泣かせ、考えさせてきたこの2作品。何が若い観客を惹きつけるのか、そして俳優たちは何を考えて演じているのか。その魅力と秘密を、公演を観た皆さんと出演者とで語っていただきました――(2008.5.17)




司会
細渕文雄
青年劇場青少年劇場部長/「修学旅行」アキラ先生役

細渕 「3150万秒と、少し」は、2005年の秋から、主に学校公演の演目として166回の公演を重ねてきたんですけど、上演後の座談会はどんな感じですか?

大月 そうですね、生徒さんたちとは会ってまだ数時間しか経ってないのに、いま悩んでいることとか、親にも言えないこととか、本当に真剣に話してくれるんですよ。と同時に、高校生を主人公にしてるので「いや、僕は、ちょっとこうは思わない」とか、そういう意見も出てくるんですね。それを公演班に持ち帰って皆と一緒に話し合うんです。だから昨日観てくれた生徒さんたちと一緒につくったのが、次の日の舞台だったりするんです。それをずっと、166回繰りかえしてきた作品なので、初演のころより、ずいぶん芝居として「分厚く」なってると思います。

細渕 中野さんは、東京での初演をご覧になったそうですが、いかがでした?



中野航さん
大学生

中野 えっと、最初に二人が生き残って、それから「死ぬまでにやりたいことリスト」をいろいろやるじゃないですか。それをしばらく観てるうちに、だんだん二人がなにをやってるのかってことがわかってきて…私は実際には、突然、友達が亡くなったという経験はないので、本当にそういう立場になったら、心境だとか、そういったものがどうなってしまうかはわからないんですけど、でもそういう状況で生まれる、人の強さというか、そういったものが観られるいい劇だと思いましたね。

市毛 僕は相模原おやこ劇場の例会と、その下見としてどこかの高校での公演を観せていただいたんですけど、それぞれの公演で、観客の反響が全然違ってて、ちょっとびっくりしました。

大月 んー、なるほど(笑)



市毛雅大さん
相模原おやこ劇場事務局

市毛 下見で観たときには、会場が大きかったこともあり、舞台からのエネルギーが、後ろまで届いて来ない感じがあって…。相模原でやるのは決まってたんで、いやあ、どうしよう…と(笑)。で、実際、相模原の幕が開いたときの、観客の反応が、あのときと全然違ってました。これは良かったって意味で言ってるんですけど「もう観ててイライラした」と聞きました。主人公に感情移入して観てるから、自分が親にああいうふうに言われたら…と、その立場で見てるから、もう「ぜんぶムカついてしょうがなかった」と。

細渕 劇団のホームページに掲示板があって、なかなか素敵な感想を寄せてくれるんですよ。これは高校生なんだけど「今まで生きてきて、自分の感情を押さえてきたけども、この『3150万秒と、少し』を観て、自分のその、感動する歯車が回転しはじめました」って。思春期って言われる年代は、色々と悩んだりするんだけども、それを外に出せない。自分の中で、自分自身を押さえちゃっていたりする。だからこの作品は、いま中学生・高校生たちがおかれている状況の中で、彼らに非常に、寄り添う内容になっているんだろうなあと思います。

森戸 僕はこの作品観てないんですけど、今、高校生の中ですっごいあるのは、こう…空気が読めないと排除される、ノリが悪いと排除される…そういう子たちは外にそれを出せなくて、学校来なくなっちゃったりとか、リスト・カットしちゃったりだとか、そういう話は、たくさん聞きます。なんかこう、外に上手く自分の気持ちを出せないし、それを受け止めることもできない、っていうのを感じますね、すごく。



大月ひろ美
「3150万秒と、少し」川原梨香役

大月 まさに、そういう状況にある子たちが、いきなり友達を亡くしたときに、一年っていう期限を決めた瞬間に出るパワーっていうのかな、そこを大事につくって行きたいと思ってるんで、ぜひ、観に来てください。そして、見終わったあとに、ぜひお会いしましょう。

森戸 お願いします。

市毛 やっぱりこの作品の肝は、最後二人が岬に行くシーンだと思うんですよ。見ている人は、どうなるのか一番ドキドキするところですが、あそこはどういう気持ちで演じるのですか?

大月 この前の稽古のときに、そういう話になって、で、この「3150万秒と、少し」は「懸命に生きた1年」の話なので、スタートと1年後とでは、顔が変わってるはずだ、って。

市毛 なるほど。

大月 それは本物の高校生がやっても表現できるかもしれないけど、実感として、1年経ったあとの顔ができるのは絶対大人なんだ、って演出家に言われて。「なるほど!」って。だから今回は、これを大切に稽古にはげもうと思ってるんです。私は来週から稽古なんですけど、稽古って、毎回毎回ハードルが高くなっていくので、始まる前すごく緊張するんですよ。でも今日皆さんとお話してると、自分がうまくできるかとか、ハードル越えられるかとか、そういう小っちゃいことじゃなくて、その向こうにある、観てくれる皆さんがこれだけ待ってくれてるんだってことを、今すごい、ひしひしと、感じています。いい起爆剤になりました。

細渕 公演に対する意気ごみも語っていただきましたんで、今度は、「修学旅行」のほうに。

中野 私が観たのは、これも東京での初演なんですけど、1回目観にきて、すごいおもしろかったんですよ。で、人を誘って、もう1回観にいきました。この作品には、言葉は悪いですけど、劇のことを深く考えない人も、単純に笑って楽しめる、っていう面白さがあったから、例えば、ぜんぜん劇に興味のない人も、こういうのから見始めたら、すごく入りやすいんじゃないかなって思ったんです。それと、同じ劇を2回観ると、やっぱり1回目と2回目では、違うじゃないですか?

伊藤 うんうん。

中野 それが、すごくよくわかって。例えば、初日よりは絶対に最終日の方が気合入ってる、とか(笑)。同じ劇を複数回観るっていうのは、また別のおもしろさがあるなあって。初演よりは絶対に、気持ちだとか、劇に対する考え方、あとその人自身も変わってると思うし。だから「修学旅行」は、また観たいなあって思ってます。



森戸裕一さん
高校生

森戸 僕は平和ゼミナールに入っているのですが、どう「平和」のこととかを友だちに話したらいいんだろう、ってことを考えます。やっぱすごいみんな、勇気がいるんですよ。だからこういうふうに、笑いで引きつけられるってのはすごいなあって。あとすごいリアルでしたね。適当に修学旅行を楽しめばいいや、っていうあの部屋の雰囲気がすごいリアル。だけどそれも、話が進むに連れてどんどんどんどん変わっていくし…。

大月 「修学旅行」って、前半笑えば笑うほど、最後のセリフがこう、ポッて耳に入った瞬間に「あ」って。

森戸 なんか、急に落とされる…。

大月 そうそうそう。あ、そっか、って「ストン」て落ちる。落とし穴が、ここにあったか!みたいな(笑)。

森戸 あと…上にあったゴーヤがすごい気になって。

市毛 あれは、どう深読みしたらいいのかな、って…。

(一同、笑い)

伊藤 あれが爆発するんじゃないかっていう予測をした人だとか、部屋の人が誰も気づかないってことが、なんか恐いよねって言った人もいましたね。



籾山(もみやま)公恵さん
アルバイト

籾山 形的にミサイルに見えなくもないですよね。

(一同「ああー」)

伊藤 シルエットで見ると一瞬ギョッとする…大きさといい…頭の上に落ちてくるような感じとか…。

籾山 気づかないけどあるんだよ、真上に、っていう…存在が…。部屋の人たちは上、見上げても見えてない…。

大月 ハハ、深いなー、ゴーヤ。

中野 この作品を観てて、自分が一番、ハッとしたのは、私は高校の修学旅行で沖縄に行く予定だったんです。 それが、ちょうどあの9・11の…。

細渕 テロで?

中野 それで、結局、沖縄じゃなくなってしまって。だから、これを観たときに「あー、私も行ってたらこんなだったのかな」って考えてたんですね。

籾山 私も、ちょうど9・11のとき修学旅行が沖縄だったけど、行きました。行ったら、沖縄の市長さんが、来てくれてありがとう、って。9・11のせいで観光客が減っちゃって、つらかったときにあなたたちが来てくれてよかった、って言ってくれたんですよ。

伊藤 へえー。

籾山 お芝居の方の「修学旅行」で、私が心に残ったシーンは、仲居のお婆ちゃんが、笑いながら「艦砲の食い残しさ」っていうのが、なんか、もう泣きそうになって。笑って言ってるのが、すごく印象的だなーって。艦砲射撃で、殺されなかったんだよーっていうのを、いま笑って言ってるお婆ちゃんを見たときに、なんか、ここらへんがもう、火吹くぐらい熱くなって…。

市毛 僕が平和につながってるんじゃないかって思ったところは、カキザキがバット振り回してて、それに対して「こっちに入ってこないで、ここはあたしの陣地なのよ!」あれって僕はすぐ近くの国のこと思いました。

細渕 去年、学校公演で各地を回った中で、僕が一番印象的だったのは、埼玉県の高校だったんだけども、ものすごくよく観てくれて、会場は笑いの渦だったんですよ。で、終わったあとに、担当の先生と話す機会があったんだけど、そしたら、その学校は、なかなか生徒が授業に集中してくれない、立ち歩きがあって大変だと。ところがその生徒たちがあんなに集中して、しかも感情豊かに笑って観てくれた…その横顔を見て、先生がすごく感動したと、僕は非常にうれしかったんですよね、それを聞いてね。



伊藤めぐみ
「修学旅行」ヒカル役

伊藤 別の学校の先生が、しんどいことがあって生徒たちが元気がなかったんだけど、その生徒たちが今日元気に笑っていた、その笑顔を見てすごく嬉しかったとお話してくれた事もありました。

市毛 この作品には、笑わせながら、現実の世界情勢のことを連想され、比喩的に表現している部分がたくさんありますよね。笑って観ているけれど、その中でもうちょっと深く読み込んでみると、これってあのことなんじゃないかって感じて話せる題材がいっぱいあって。だからこの作品は、観たあとにたくさん話さなきゃだめなんじゃないかって思うんですよ。

伊藤 今はとりあえず稽古は終えて、次は劇場でリハーサルをやる段階なんですけど、だんだんと地面に自分の足で立ちはじめて、舞台の上のいろんなものが新たに見えてきたり、いろんな気持ちが芽生えてきたりして、今までとはまた違った、さらに新芽がいっぱいくっついた「修学旅行」になっています。

細渕 話は尽きませんが、今日はこのくらいで。これから両作品、7月まで旅公演に出発します。たくさんの高校生たちとの出会いの中で、もっと成長した舞台になって帰ってきますので、7月の公演を楽しみにしていて下さい。今日はどうもありがとうございました。