応援メッセージ ※順不同 敬称略


 『星をかすめる風』再演のお知らせをいただき、本当に嬉しい。初演の時はコロナ禍の最中で、年長の知人から公演は中止になるのか、観に行くのかと何度も電話がかかってきて大変だった。公演が決まった時は、「でも、それであなたがコロナにかかり、高齢者の多いこのマンションの人たちにうつしたらどうするの?」と問い詰められた。そんな中での観劇だった。嬉しさのあまり肩に力が入り、台詞の一言一言が耳に入るのではなく心につき刺さるような気がした。あの長い小説をどうやって舞台に創り上げるのだろうかとわくわくし、尹東柱役の俳優さんが「星をかぞえる夜」を韓国語で諳んじたときには、「序詩」ならまだしもこんな長い詩を!と息を呑んだ。
 初演後しばらくしてからその知人に訳本を差し上げたら、「胸痛むつらい内容なのに、読み終えたら爽やかな気持ちになった。80代を目前にして韓国の小説を読んだのは初めてだ」と言う。私は(今度は舞台を観てもらいたいものだ)と心の中でつぶやいた。
 今回の再演では、肩の力を抜いて舞台を楽しみたいと思う。東京だけではなく全国公演(演劇鑑賞会公演)もするという。自分の訳した小説が舞台化され多くの方々に観て頂けるとは・・・。私の人生にこんな恵まれたことが起こったのだなあと感無量である。
 青年劇場が「中高生のための演劇鑑賞教室」も行ってきた歴史を知った時も感動したが、中高生たちが「星をかすめる風」の舞台も観てくれるかなと、期待に胸ふくらませている。

鴨良子(「星をかすめる風」翻訳者)


共有、共感、そして同行する「尹東柱ら」

 詩人「尹東柱」。彼の名前を聞くと最初に浮かぶイメージとは、「民族抵抗詩人」ということばだ。そのためなのか、尹東柱の詩が日本で読まれ、記憶されることに違和感を覚えたこともある。韓国社会では、尹東柱を朝鮮の独立を求め、禁じられたことば(朝鮮語)で詩を書くという抵抗を実践した人物として記憶するが、日本での尹東柱はどういう意味をもっているだろうか。植民地の知識人の生涯と詩を通じて、日本の帝国主義・植民地支配といった過去の歴史を省察するきっかけになったのは確かであろう。
 ところで、2020年の「星をかすめる風」では、「民族」を代表する詩人や「抵抗」する個人ではなく、自分の内面に存在する葛藤や矛盾ときちんと向き合おうとする多くの「尹東柱」に出会えた。人々との関係性やその人たちの内面の変化が、フィクションだけど、もしかしてあったかもしれないという錯覚かつ想像の幅を広げてくれるような作品だった。
 「星をかすめる風」は民族や国家を意識せず、観る側にとって想像・創造の自由な空間になっている。人々の内面の葛藤や表現に付き合いながら、また想像しながら、「今、ここ」に生きている私たちの生活を創造していくことができる空間となっている。この空間で「今、ここ」に居続けている尹東柱らに出会え、その出会いが生み出した響きを共有し、共感する。そして明日への道に同行できることが楽しみである。この出会いのためにもぜひ劇場へ足を運んでほしい。

金ァ愛(キムウネ 明治学院大学国際平和研究所研究員)


 子供から大人まで、多くの韓国人に愛され続ける詩人ユン・ドンジュ(尹東柱1917-1945)。分断前の朝鮮で学んだ後に留学した同志社大学には詩碑もある。京都で逮捕され、福岡で獄死したユン・ドンジュを描いたベストセラー小説「星をかすめる風」(イ・ジョンミョン)は、世界10数カ国で翻訳され話題になり、イギリスとイタリアで文学賞を受賞した。その原作を、私が最も注目している演出家であるシライケイタが再び舞台にあげるという。期待しないわけがない!すでに9月が待ち遠しい!!早くチケット買いたいよー!!!

ヤンヨンヒ(映画監督)


 他者を揶揄する言説に溢れ、言葉への信頼が大きく傷つけられている今、孤独を恐れず他者に語り掛ける詩の言葉と、自己の存在をかけて他者と切り結ぶ演劇の力は、言葉に誠実に向き合うことと全うに生きることの大切さを私たちに伝えてくれます。

丸田真悟(演劇批評)


 初演の舞台の煌めく星座――尹東柱の「星を数える夜」に新たに二つの星を加えたくなった。一つは焚書に抵抗する人々を描いた「華氏451度」のレイ・ブラッドベリ。そしてもう一つは監獄を舞台にした映画「ショー・シャンクの空に」の原作者スティーヴン・キング。再演の舞台で、また新たな星に巡り合うのが愉しみだ。(水天)

津川泉(脚本家・日韓演劇交流センター専門委員)


 「星をかすめる風」の舞台で描かれた福岡刑務所の尹東柱の姿に目を奪われ、尹東柱の詩「序詩」の朗読に心震えた記憶がいまも鮮やかです。待ち望んでいた再演をとおして、作品の感動とその意味が広く伝わっていくのを願っています。

朴慶南(パクキョンナム 作家・エッセイスト)


 劇中で使用される音響(佐久間修一)が効果的で、この芝居を盛りあげている。詩人・尹東柱を描いた作品で、上質なミステリー仕立て。上演時間二時間三十分を感じさせないほどテンポもよく、劇場を出てからも、しばし観劇後の余韻にひたっていた。もう一度、観たい舞台作品の一つでもある。

梅本總


 「在日コリアン3世で日本の教育を受けて育ったこともあり、尹東柱の存在を知ったのは20代になってからだった。その詩に初めて接して、こんな美しい詩を残した人が植民地時代にいたという事実、27歳という若さで獄死という悲劇的な最後に驚きを隠せなかった記憶がある。
 その尹東柱を題材にした「星をかすめる風」は、とても刺激的な作品だった。囚人と看守、立場は大きく違っても、同じ人間として心を通わせることが出来るのは、独立運動家・安重根の人柄に、日本人の看守が感化を受けたという逸話もある。
 今回の再演を多くの人たちに観てもらい、尹東柱の魅力に触れてほしい。

李相兌(リサンテ 東洋経済日報編集部)


 尹東柱がユン・ドンジュとして生きられなかった時代があった。「内鮮一体」と言いながら朝鮮人を徹底監視し、「思想犯」として捕らえた挙句に獄死で片づけた。今、レイシストらは排外主義を掲げてヘイトクライムを仕掛ける。入管は拘束した外国人を命の危険にさらす。暗黒の時代は終わったのか。日本人の「脱亜入欧」意識は変わったのか。青年劇場は問うている。

「哲恩(ペチョルン KJプロジェクト)


 3年前の初演、劇中でドンジュの詩『星をかぞえる夜』がハングル(朝鮮語)で朗々と響き渡った。そのとき、息をのみ吸い込まれてゆく観客と舞台が異様なほどの緊張感ではりつめた。幾人もの観客がすすり泣いていた。ハングルの音の響きがあれほどまでに美しいと思ったことはない。その美しさはまるでショパンの音楽のようだ。
 かつて母語を奪われた詩人が、その命と引きかえに母語ハングルの詩をのこし、福岡刑務所で獄中死させられた。あれから約80年、今年9月、詩人の声が私たちの前に立ち現れる。ヘイトスピーチが在日コリアンを襲うこの日本で。ドンジュよ、教えてほしい。日本はもう変わったのだろうか。

崔善愛(チェソンエ ピアニスト・『週刊金曜日』編集委員)