昭和15年、朝鮮・水原(スウォン)郡。
日本政府による「創氏改名」政策の任にあたっている谷六郎は、改名を拒んでいる地主・薛鎮永(ソルヂニョン)の説得を命じられる。
薛は、日本軍に二千石の米を献納する親日家であったが、改名に応じる様子はない。
家を訪れた谷に、700年にわたって受け継がれてきたという"族譜"を見せ、自分は一族の当主として"姓"を変えることはできない、と語る…。
※「族譜」とは、韓国朝鮮で一族の代々の当主が、家系図とともに、それぞれの時代のできごとを書き残し子々孫々に伝えるもの。
※近年の研究成果により、実在したソル・ヂニョン氏は、日本の植民地支配に抵抗し続けた抗日運動家であったことが判明しています。この演劇作品はフィクションであり、登場する人物、団体、事件等は創作上の設定であることをご了承下さい。
ジェームス三木
国家とは何か
日清、日露戦争に勝った日本は、朝鮮を保護する名目で支配下に置き、併合して日本の領土にした。朝鮮人はみな日本人にされた。
太平洋戦争に勝ったアメリカは、日本を保護する名目で支配下に置き、極東の防波堤として米軍基地を各地につくった。
さすがに日米併合はできなかったが、もっと巧妙な手段で、日本人はアメリカ人にされつつあるのだ。
行儀のよかった日本人が、歩きながらホットドッグを食っている。千年以上もタテ書きであった日本語が、公文書もメールも、ヨコ書きに一変した。街を歩けば喫茶店もバーも企業名も車の車種もみな英語である。幼児のころから英語教育に熱中し、国語力の衰退は目を覆わんばかりだ。
湾岸戦争の戦費百億ドル負担、イラクへの派兵、米軍基地の移転費負担、軍隊を持たないはずの日本が、日米合同軍事演習をやっている。それを合法化するために改憲をもくろむ。失敗つづきの衛星打ち上げも、軍事目的であることが明らかになった。すべてはアメリカの世界戦略の片棒担ぎである。
更にいえば裁判の陪審員制度、意図不明の道州制と、アメリカのいいなりで、首相になりたい政治家は、アメリカ詣でをしてゴマをする。日本人は無邪気なのか鈍感なのか。寄らば大樹の陰と思っているのか。
ご覧に入れる芝居のテーマは『国家とは何か』である。思い切り想像力をふくらませて戴きたい。