第102回公演

堀田清美=作 藤井ごう=演出
核なき世界へ思いをのせて……!
公演終了!ありがとうございました!


 左より 清原達之 伊藤めぐみ 上甲まち子


 戦後65年の今年、藤井ごう氏を演出に迎え、新宿・紀伊國屋サザンシアターで上演した「島」は、9月4日〜12日の12ステージ、多くの反響をいただき好評裡に終える事ができました。この作品に取り組む中で、長年にわたり反核運動を推進されてきた多くの方々のご協力をいただけたこと、とくに被爆者の方から直接お話をうかがう機会を得たことは、この作品をより深く理解し広めるための強い力となりました。

 舞台は、核兵器の悲惨さ、被爆者が受けた傷の深さのみならず、“島”に生きる人々の貧困と米国による占領政策、若者の不安定な雇用など、現代社会を想起させるような構造も描かれ、その中で懸命に生き抜こうとする人々への共感が多数寄せられました。この舞台が、少しでも現代に生きる人々の励ましになれたとしたらこれほど嬉しいことはありません。しかし「核なき世界をめざす」と宣言したはずのオバマ大統領のもと、米国がまたも核実験を行ったというニュースが飛び込んできました。「核なき世界」へ思いをのせて、近い将来、全国の皆さまのもとへお届けしたいと強く思います。

 ご来場くださった皆さま、本当にありがとうございました。



劇評より @

(略)敗戦後も癒えぬ戦争の傷跡、狂ってしまった人生、被爆者の苦しみ、その悲劇が戦後六年目の小さな島の日常生活を通して厳しく問われる。作者は一人一人の人柄や暮らしを丁寧に描き、清盛祭が島の叙情性を出す効果をあげた。全盛期の新劇の厚みを感じさせる戯曲である。藤井ごうの演出も肌理(きめ)細かく出演者も揃って上手い。とくに上甲と藤木が生活感に溢れた演技で出色である。リアリズム演劇を本領とする青年劇場の実力が発揮され見応えのある舞台になった。

(水落潔『テアトロ』11月号より)

幅広い世代の方々より感想を寄せていただきました。ほんの一部ですがご紹介します。

●とても印象的な作品でした。一人一人の人物の輪郭がはっきりしていて、島で生活している生き生きとした実感が伝わってきました。私にとっては親子の問題であり、男女の問題もあり、すべての背景に広島に落された原爆の影が立ちあらわれる構図を感じました。原爆の後遺症を抱えながらも、生き抜いてみせるという最後のセリフに、未来への熱い想いが込められていたと思います。あの二人はきっと共に生きていく、という力強さを感じる舞台でした。自分の人生は自分で築き上げていくもの、分かち合う幸福について考えさせられました。(藤田越子・50代)


 左より 北直樹 清原達之 伊藤めぐみ

●原爆という重たいテーマにも関わらず、途中で笑いを誘うなど、演劇のおもしろさを改めて実感しました。「島」を観劇して、いかに自分が戦争や原爆に対する考え方が甘かったのかを知ることができました。悲惨な歴史の一部としか今までは思ってなかったのです。しかし、学が後遺症に苦しむ生活を見て、原爆は過ぎ去った歴史ではないと思いました。(匿名希望・10代)

劇評より A

(略)「島」の閉そく状況の中「人間らしく生きる」ことを模索するのが青年教師(清原達之=好演)。(中略)原爆の問題を大上段からふりかざさずに、庶民の生活の視点に織り込んでじっと見つめている。上甲まち子、藤木久美子、吉村直らベテラン陣が存在感を見せ、劇団が総力をあげて取り組む姿勢が好ましい。

(木村隆「スポーツニッポン」9月9日付)

●非常に見ごたえのある劇だった。核兵器が何万発もあったり、米軍基地が必要だという世の中の動きの中で、平和と人間の力を信じる圧倒的パワーを感じさせてくれた。人間的なドラマが最初から最後まで一貫していたので、時間の長さを感じさせなかった。先の見えない原爆症状の苦しみや差別もよく表れていた。(笹本潤・40代)

●学は、自分ではどうしようも解決できない怒りを「どうして、どうして、どうして……」という激しい言葉で表現し、そんな不条理な状況に置かれても「くそ、生きてみせるぞ!」と苦しみもがきながらも一歩を踏み出していました。そのことが自分を苦しめている不条理なものへの闘いであり、「生きる」ことの意味を必死につかもうとする思いを強く感じました。(「文京区労協ニュース」より転載)(川内芳隆・60代)

 B

(略)清原の学は、自分を看病してくれた母への思いや、教え子以上の愛情を抱いた木戸玲子(伊藤めぐみ)と「ピカ」のために結婚できない体になったと考えての悩みや、原爆投下の翌日広島の街に妹を探し歩き二次被爆者となった隣人・川下きん(藤木久美子)が血を吐いて死んでいった悲しみなどから、健康に生きたいという叫びにならない叫びを立ち昇らせていた。(中略。舞台から感銘を受けたのは)原爆の悲惨を声高に訴えるのではなく、被爆者の心の痛みを噛みしめるように語っていたからだろう。

(小田島雄志「読売新聞」10月6日付)

●玲ちゃんと学はこの先どうなってしまうのでしょう?ラストで学が生きる決心、力を取り戻せたのだから二人で幸せになってもらえないものか、と思います。登場人物の一人一人が精一杯生きていて、私も力をもらった気がします。正直、テーマからもっと暗く、重いものを想像していました。しかし、苦しく辛い状況の中でも「生きる」人々の姿に私もがんばらなきゃと思いました。(玉川悠・30代)


 左より 上甲まち子 藤木久美子 矢野貴大
(舞台写真:宮内勝)

●3時間を越える久々の作品で、大変見ごたえがありました。学ときんの二人の被爆者の生きてゆく上での心の悩み、葛藤の数々が手にとるように伝わってきました。また、彼らを支え、見守っている周囲の人たちの気持ちも十分に理解できたと思います。「島」という小さな社会での日々の出来事ですが、多少のユーモアを交えながら精一杯生きてゆく人々の熱意を感じ取ることができました。(三渡章高・70代)