第92回公演
「族譜」公演終了
梶山季之=原作 ジェームス三木=脚本・演出


 昨秋上演された「族譜」(10月27日〜11月7日)は、おかげさまで6,000名近いお客様を迎え、好評のうちに無事幕を閉じました。戦中に日本が朝鮮半島で行った"創氏改名"政策を軸に、「国家とはなにか」を現代に問うたこの作品は、「美しい国、日本」を提唱する首相の誕生、教育基本法の「改正」が具体的に進行するという緊迫した中での上演となりました。また、一昨年の『銃口−教師・北森竜太の青春』韓国巡演の反響をまとめた本「『銃口』が架けた日韓の橋」の出版とも重なり、この作品の上演と併せて、私たちが韓国の人たちと共に作りあげてきたもの、知り得たことを改めて確認できる機会にもなりました。ご観劇くださった方々よりメッセージを寄せていただきました。


○「創氏改名」―60数年前、日本が植民地の朝鮮で行ったこの政策の意味を、私たちはどれだけ深くとらえているだろうか。朝鮮の「姓」と日本の「氏」の違いが、果たしてわかっているだろうか。青年劇場の『族譜』は、日本側の視線と朝鮮側の視線を交錯させながら、私たちの意識を過去へといざなって、植民地支配の"現実"に直面させ、支配する側の論理が、いかに相手側の尊厳を冒涜するものであるかを思い知らせてくれる。『族譜』によって、歴史への眼差しを鍛え、他者への思いを豊かにする―そんな気運が日本の社会に広がってほしいものだと期待している。

大日方純夫(早稲田大学教授)



左より 船津基 青木力弥 佐藤尚子
(撮影:蔵原輝人)

〇『族譜』の全国公演をぜひやってください。歴史健忘症を良しとするこの国・日本で今こそ大切な公演です。なんとしても実現してください。

中塚明(奈良女子大学名誉教授)


〇朝鮮人の苦痛、自分の尊厳をあくまで貫く姿勢、日本人としての申し訳なさ、暴挙に対する人間としての憤りで涙が止まりませんでした。私は日本と朝鮮の歴史関係の認識を深め合う運動をしていますが、今度の観劇ほど、朝鮮の人々の高貴さに心打たれ、日本の横暴さに打ちのめされたことは今までなかったです。これは私たちの今の問題です。演劇は大きな力を持っています。一層のご健闘を祈ります。

東海林勤(NPO高麗博物館・理事長)


〇『族譜』では"愛国心"批判を―こう言って許されるなら―「愚直」なほどに正面から取り上げていた。しかしながら、この「愚直」さが不可欠と思えるほどに、昨今の日本では右傾化が進んでいる事も事実である。教育基本法は改悪、ついには憲法へと触手が伸ばされようとしている。安倍首相は2007年年頭所感のなかで、「子どもたちの世代が自信と誇りを持てる"美しい国、日本"とする」と述べている。しかし、なにを「美しい」とするかは、じつに相対的な問題である。愛国心の強制はむしろ「醜い」ものであることを、そのような「不寛容さ」のなかから「自信と誇り」が生まれるはずもないことを、私たちは訴えていかなければならない。そのためにも『族譜』の持つメッセージの「愚直さ」が、いま切実に求められているのである。

後藤雄介(早稲田大学教員)


〇日本がかつてアジア諸国を植民地にしていたという歴史、その政策の一つである「創氏改名」について、聞いたことがない、知らないという声を聞くたびに少なからずショックを受ける。学校教育で学ぶ「歴史」から、日本が何をしてきたのか、どんな詭弁を使ったのか、日本人は何を信じていたのか、あの時代に生きた人が何を感じていたかを想像することは難しいように思う。「族譜」の重みなど、私も知らなかった。知らないということは罪かもしれない。芝居というのは、人が人を演じる。それによってそこに感情が甦る。この作品が全国各地で上演され、あの時代を生きた人々の感情を伝え、観客の心を揺さぶり続ける事を願っている。

姜咲知子(インターネット新聞「JANJAN」記者)


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