「博士の愛した数式」は2017年秋の公演を持って一旦終了、2013年からの5年間、全国で子どもから大人まで様々なお客様にご覧いただくことができました。昨年11月には原作者の小川洋子さんが明石市での学校公演を観劇して下さり、演出の村上秀樹さん、脚本の福山啓子と出演者を交えしばし懇談することができました。12月23、24日のスタジオ結でのさよなら公演はお陰さまで3ステージとも満席、最後は鳴り止まぬ拍手の中、幕を下ろすことができました。

たくさんのルートと出会って

永田江里(俳優)



左が母親役の筆者  撮影:V−WAVE
 2013年に始まった新生「博士の愛した数式」には私にとって多くの「初」がありました。旅公演が先で東京でのお披露目が後というのも初、体育館フロアで横長に舞台をつくるのも初、小学校での公演も初。手探りで不安だらけの出発で、私の心はガチガチに固まっていたのかもしれません。しかし、目の前の出来事と直球に交流してくる小学生や、物語を素直に深く受けとめルートの誕生日では一緒に拍手してくれる中学生、自身や家族と重ねて観てくれる高校生たちと出会っていく中で少しずつ前へ進む事ができたように思います。

 子ども劇場・おやこ劇場、演劇鑑賞会、実行委員会での公演も私たちに大きな力をくれました。まるで自分の家庭をのぞいているよう…母親とルートの気持ちがすれ違ってしまう場面ではハラハラし、純粋な愛情と優しさで自分を認めてくれる存在=博士と出会い変化していく母子に会場の空気もほんわか温かくなる。褒める事は相手を認める事。自分は自分で良いんだ!と肯定する大切さ…。博士のような人に出会いたいという憧れも抱いているようでした。印象に残っている感想で、ゼロ(0)を和(○)と表現した子がいました。オイラーの公式eπi+1=0はみんな和になろう、仲良くしようよって意味じゃない?と。なんて素敵な発想なんだろう!大人がびっくりするような目線で芝居を観ている子どもたちはみんな無限の可能性を持ったルートである事を改めて感じた公演でした。


明石公演にて。小川洋子さん(前列左から2番目)、
村上秀樹さん(右から2番目)、福山啓子(後列左)
 カーテンコールでの鳴り止まない拍手や笑顔で手を振ってくれる姿を見ると、あぁ、なんて幸せなんだろうと胸がいっぱいになります。だからこそ、1回1回を大切に責任を持って演じなければならないと自分に言い聞かせるのです。良い出会いにしたいから!
この5年間ありがとうございました!!