「呉将軍の足の爪」


瓜生さんの眼差し(坂手洋二)  朴祚烈と瓜生正美  演出・瓜生正美に聞く!  製作者から

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坂手洋二
(劇作家・演出家 燐光群主宰)
瓜生さんの眼差し

 私が初めて海外に出かけたのは、1993年暮れ、北京で行われた「中国小劇場演劇フェスティバル」の「日本参観団」の一員としてである。

 「日本参観団」は演出家を中心とした日本の演劇人たちによって構成されていた。北京の宿は、瓜生さんと私が相部屋ということになった。最年長と最年少を皆がもてあましたのかもしれない。が、どうやら私たちの部屋が一番楽しいと思われたらしく、いつのまにか皆が集まって飲むのはその部屋ということになった。

 私にとっては、アジアとの出会いの旅だったが、瓜生さんにとっては、アジアと出会い直す旅だったようだ。

 当時、七十歳にして毎朝素振り二百回の鍛錬を欠かさない瓜生さんであった。三年前、私の戯曲『戦場のピクニック・コンダクタ』に俳優として出演されたさいも、匍匐前進のシーンなど、「ホンモノはかくのごとし」とばかりに、生き生きと演じられていた。

 瓜生さんの演劇人生は、兵士として参戦を待つ身であった愛国青年が、反戦主義者に転じたところから始まったという。

 瓜生さんの戦争に対する思いは、他のアジアの演劇人たちと同席したときに滲み出る。沈黙の中に見せる深い眼差し。言葉を尽くすよりも、いかに自分が生きるかだという思い。

 瓜生さんが韓国の戯曲を演出されるという。あの眼差しの先にあるものが、舞台に現れるのだと思う。