「呉将軍の足の爪」


瓜生さんの眼差し(坂手洋二)  朴祚烈と瓜生正美  演出・瓜生正美に聞く!  製作者から

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みなさん、青年劇場公式サイトにアクセスしていただき本当にありがとうございます。

『呉将軍の足の爪』は、本当に中味のもりだくさんな作品です。大胆にディフォルメされたキャラクターたち、牧歌的な村の暮らしと過酷な軍隊生活とのコントラスト、激しい動きと静かな語りのシーンの対比、コミカルな場面もあれば背筋の凍るような場面もある、クラリネットの生演奏とハミングの歌声、装置や演出法はシンプルにして大胆――作者の朴氏は戯曲の冒頭で「もっとも大切なのは、童話的な想像力だ」と述べています。たしかに呉将軍の世界は、ユーモラスでおおらかで、「童話的」という言葉がぴったりです。(この世界観をみごとに表現して下さった、まえだけん氏の素敵なイラストをじっくりご覧下さい!)

でも、なんのために?

なにを表現し、理解するために、「童話的な想像力」がもっとも大切だと朴氏はおっしゃっているのでしょうか。

私たちはやはり、朴氏の経歴に注目してしまいます。当サイトでもご紹介している通り、朴氏は朝鮮戦争の時期から十二年間、韓国陸軍に一兵士として服務、演劇活動をはじめたのは軍隊を除隊したあとのことです。朝鮮戦争で家族とわかれわかれになり、以後現在まで、朴氏は家族と再会していません。

演出の瓜生正美いわく「すごくクール」で「飄々と」されている朴氏は、本作『呉将軍の足の爪』で、戦争で引き裂かれる呉将軍と彼の家族たちの姿を描いています。シリアスに、悲惨に描こうとすればいくらでもそうできるこの作品を、彼は非常に明るく、あたたかくかわいた色調で仕上げています。いくら現実が悲惨であっても、感傷的な涙でくもった目ではなく、澄んだ瞳できちんとみすえて、私たちが前向きに生きていけるように。

御存知の方も多いでしょうが、演出を担当する瓜生正美は、青年劇場創立メンバーの一人であり、また劇団代表として長く演劇界の第一線で活躍してきました。彼はアジアの演劇人、特に韓国の演劇人とは長年懇親を深めてきました。作者の朴氏とは、韓国が軍事政権下で表現活動が自由にならない時代から交流を続けてきました。
この度の上演もその経緯の中から生まれたものです。(坂手洋二氏の推薦文、瓜生のインタビューもぜひご覧下さい!)

青年劇場は来年、創立45周年を迎えます。私たちはつねに、時代と社会に向き合う作品づくりを中心に活動してきました。本公演『呉将軍の足の爪』は、人間の尊厳を踏みにじる戦争への怒りを表現活動の根底にすえてきた日韓の両演劇人の熱い思いが、国境を越えて結実したものとなります。

はなはだ陳腐な決まり文句ではありますが、ぜひ劇場へいらしてください。
自信を持ってお待ちしております。

秋田雨雀・土方与志記念青年劇場
製作部 川田結子